1. 教育制度の概要と特徴
シンガポールの教育制度は、以下のような特徴を持っています
- 6-4-2制:初等教育6年、中等教育4〜5年、高等教育2〜3年。
- 義務教育は6年間:小学校(Primary School)のみが義務教育。
- バイリンガル教育:英語と母語(中国語、マレー語、タミル語)を必修。
- 能力別教育(ストリーミング制):小学校卒業時の試験(PSLE)で中等教育の進路が決定。
2. ストリーミング制とその改革
かつては「Express」「Normal Academic」「Normal Technical」の3コースに分けるストリーミング制が主流でしたが、近年は以下のような改革が進んでいます
- Subject-Based Banding(SBB):2024年から全面導入。科目ごとにレベルを選べる柔軟な制度。
- 試験の簡素化:小1〜中3までの中間試験を段階的に廃止。
- 成績表から順位を削除:過度な競争を避けるための措置。
3. 教育成果と国際評価
- PISA 2022:数学・読解力・科学すべてで世界1位。
- TOEFL iBT平均スコア:98点(アジア1位)。
- QSアジア大学ランキング:シンガポール国立大学が1位。
4. 教育政策の背景と国家戦略
- 教育予算は国家予算の約16%(国防費に次ぐ規模 日本は約3%)。
- 人材は唯一の資源という国家理念のもと、教育は経済政策と密接に連動。
- SkillsFuture:成人の再教育・職業訓練を支援する国家プログラム。
5.教師の待遇
シンガポールでは、教師は国家の未来を担う重要な専門職として位置づけられており、待遇面でも高い水準が保たれています。
- 給与水準は公務員の中でも高めで、優秀な人材を教育現場に引きつける設計。
- 教師になるには、国立教育大学(NIE)での専門的な研修が必須。
- 成果に応じた昇進制度や、医療・年金・育児支援などの福利厚生も充実。
- 教育省は、ワークライフバランスの改善やメンタルヘルス支援にも積極的。
このような制度は、教育の質を高めるだけでなく、教師という職業の社会的地位を向上させることにもつながっています
6. 教育の課題と今後の展望
- 教育格差:能力別教育が社会的分断を生む懸念。
- 過度な競争:いわゆる「キアス文化」※が子どもにプレッシャーを与える。
- ホリスティック教育※への転換:学力偏重から「スキルに基づく実力主義」へ。
※キアス文化:「他人よりも優位に立ちたい」「機会を逃したくない」という強い心理的傾向。
※ホリスティック教育:知識やスキルだけでなく、心・身体・社会性・精神性など、全人的な成長を重視する教育理念
まとめ
シンガポールの教育制度は、高い学力水準と柔軟な制度設計、そして国家戦略としての教育投資によって、世界トップレベルの成果を上げています。PISA 2022では全分野で1位を獲得し、日本と並ぶ教育先進国として注目されています。
一方で、「キアス文化」に象徴される過度な競争や教育格差といった課題も抱えており、政府は「ホリスティック教育」への転換を進めています。これは、知識だけでなく、心・社会性・創造性を育む全人教育であり、日本の「生きる力」や探究学習とも共鳴する考え方です。
日本もまた、GIGAスクール構想や探究学習の導入など、変革の途上にあります。シンガポールの事例は、私たちがこれからの教育をどう設計し、どんな人材を育てていくべきかを考える上で、大きなヒントを与えてくれるでしょう。

キヨミチ
日本が教育改革を進める上で、お手本になる国の1つだよね。日本の特色に合わせてうまく取り込むことができるかが、ポイントになりそうだね!